ロバのパン(ゼリー味)
久し振りに惚れてしまった。
相手はロバのパン(ゼリー味)
到着駅から職場まで徒歩20分あるから、いつも待合室のベンチで昼食を食べるんだけど、なんだか食べるのが勿体なく思えてしまった。
1時間後には就労なので食べないといけないんだけど…。
折角だから、途中まで一緒に歩こう。
パンというよりカリフラワーみたいだね。
電車と一緒に撮りたかったけど、来るのを待ってたら遅刻必至なので断念。
名前を知らない花と。
道に咲く花の名前。
娘に聞かれた時に自信持って答えたくて、植物図鑑を夫に買ってもらったんだけど、まだ一ページも読めていない事を、名を知らぬ花を見るたびに思い出す…。
やらなければいけない事が沢山あるはずなのに、ロバのパン(ゼリー味)に惹かれて散歩してしまった。
20分だけだから…
通勤だから…
そう心の中で言い訳しながら、シャッターボタンを押す。
君との出逢いは駅。
通勤中の駅構内で、『ロバのパン屋』なる店舗が出張販売に来ていたね。
ゼリー味というワードに惹かれ、何も考えずに買ってしまった。
「食べる前にレンジで温めて下さい」
店員さんはそうアドバイスしてくれたけど、私はこれから仕事なので、折角の助言を遂行出来ない。
申し訳ないと思うよりも先に、間も無く目的地に着いてしまう焦りが濃く浮かんで来た。
Happy Family Life...。
日陰の家族計画。
あと10分弱で職場に着く。
というか、着かなければならない(遅刻するから)
断腸の思いでロバのパン(ゼリー味)を、割る。
口に入れるとパサパサとした、表面。
中はやや水気があり、温めたら美味しかろうという事を物語っていた。
アドバイスを無下にしてしまった。
でもお腹を満たさないといけないのは今なんだ。
これから仕事だから。
子供を預けてから一人で電車に乗り、一人で職場まで歩くこの20分が好きだ。
人気のない道だから遠くの山々を眺めながら歩いても、気になる植物群を横目に歩いても、誰かの迷惑にならない。
思いの外ゆっくり歩いてしまっても、徒歩20分の距離なら走れば巻き返せる。
20分という距離はとても良い。
だけど勝手なもので、一人で楽しむのは少し寂しさも感じていた。
そんな道中に突如現れたロバのパン(ゼリー味)
岐阜生まれのロバのパンに、故郷の道を見せる
という目的が無造作に生まれた瞬間、通勤経路が確固たる彩りを持ち始めた。
ロバのパンの三人称で撮影していたはずが、ロバのパンと共に歩く私の一人称視点になっていた。
ロバのパンが仲間になったのである。
20分だけの旅の仲間。
またいつか…
(出張販売がある出勤日に)
君の故郷の道を歩こうね。